宇宙の声(11)

作戦開始

 
 
「いったい、名案て、どんなことだい。これだけ考えて、まだみつからないんだよ」
 と、みなは驚いたような声で、いっせいに聞いた。プーボはもったいぶって答えた。
「つまりです、虫を働かせて、あとに面倒な問題を残さないようにすればいいわけでしょう」
「そうだよ、それを知りたいんだ。早く教えてくれよ」
「こうすればどうでしょう。虫の|雄《おす》だけを選びだして、それを使うのです。雄は卵を産みません。だから、しばらくすると寿命がつきて死んでしまいます」
「ほんとだ……」
 ミノルもハルコも感心した。こんなことになぜ気がつかなかったのだろうと、ちょっとくやしかった。キダはうなずきながら言った。
「うん、たしかにいい方法だ。しかし、それにはここで虫をふやし、雄だけを選んで運ぶという仕事をしなければならない。その時間が残されているかどうかだ……」
「基地へ連絡してみます」
 と、デギが言い、オロ星の月の基地と、無電で話し、いまの考えを報告した。
 返事はこうだった。ぜひその作戦を進めたい。基地で手のすいている人員や、あまっている資材は、すべてそちらに送る。全力をあげてその計画にとりくむように。
 怪植物の種子は、宇宙をめざして飛び出そうとしつづけているが、あとしばらくは、なんとか食いとめることができるだろうとのことだった。
 基地からの返事につづき、何台もの宇宙船が、砂の星へ到着した。力を合わせ、大急ぎで虫をふやそうというのだ。
 ふやすのは簡単だった。植物性のものを与えさえすればいい。虫たちはそれを食べながら、どんどんふえてゆく。
 この星のむかしの住民たちは、なんとかして虫をへらそうと苦心し、それができずにほろんでいった。しかし、いまはその反対のことをやっているのだ。そう考えると、なんだか、妙な気分だった。
 虫は、たちまち数えきれぬほどになり、重なりあってあたりをはいまわっている。それをながめて、ハルコはミノルに言った。
「かわいいところがなく、美しい声も出さず、気持ちが悪いわね」
「だけど、そんなことを気にしている場合じゃないよ」
 面倒なのは、雄を選ぶ仕事だった。たとえ一匹でも、|雌《めす》がまざっていてはいけないのだ。雌がまぎれこんだら、オロ星は永久に、ここと同じく砂だけの星になってしまう。
 しかし、そのうちに、昆虫学者と機械技師との協力で、雄と雌とをよりわける装置が作られた。おかげで、そのスピードは早くなった。
 えさのつづくかぎり虫をふやそうと、みなは、その作業に熱中した。
 いっぽう、オロ星の月の基地では、別な用意が進められていた。虫が怪植物に勝ってくれた場合でも、オロ星の地上は一回は丸坊主になってしまう。すべての植物が、食べつくされるおそれがあるのだ。
 あとでまた植物をふやすために、種子を集めて、とっておかなくてはならない。また役に立つ動物や虫も、安全なところで冬眠させておかなくてはならない。
 人びとはまだ怪植物にやられていない地方に着陸し、その作業を進めた。なかには、こんなことを話し合っていた者もあった。
「地球人のキダから聞いたのだが、地球にはノアの箱船という伝説があるそうだ。大水で世界がめちゃめちゃになるが、船に乗せておいた動物たちが生き残り、人間とともに、ふたたび新しい時代が栄えたという物語だよ」
「いまの仕事もそれと似ているな。害虫だの雑草は、ちょうどいいから、ほっぽっとくとするかな」
 実行の時は迫ってきた。
 砂の星では、虫がずいぶんふえた。もっとふやしたいのだが、ぐずぐずしてはいられない。宇宙へ飛び出そうとする怪植物の種子が、さらに数をましたのだ。もう、これ以上は待てなくなった。
 雄の虫だけを積みこんだ宇宙船が、つぎつぎと出発した。これが成功するかどうかにオロ星の運命がかかっているのだ。いや、宇宙の運命がかかっているともいえる。
 先頭の宇宙船には、キダやミノルたちが乗っていた。やりそこなったら、いずれは地球も怪植物にやられるのかと思うと、心配で落ちつかなかった。
 宇宙船はオロ星の陸の上を低く飛び、虫をばらまいた。虫は大粒の雨のように散り、勢いよく植物に飛びつき、手あたりしだいに食べはじめた。なにも残らない、砂だけの地面がふえてゆく。
 虫のなかには、問題の怪植物に飛びついたのもあるはずだ。さあ、どうなるだろう。
 キダやミノル、ハルコ、プーボは宇宙船からヘリコプターに乗りかえ、それを調べるために、地上へさらに近づいた。
 なかから望遠鏡で見つめた。だが、怪植物は、ほかの草や木のように、あっさりとは食べられてしまわない。
 虫のほうも手ごわい相手だと気がついたようだ。なかまと連絡しあったらしく、どの虫も怪植物めがけて集まった。この強敵をやっつけておかないと、あとがうるさいと感じたのだろう。
 月の基地からは、いらいらしたような声で、ヘリコプターに無電で聞いてきた。
「どうだ、ようすは……」
「まだわかりません。なにしろ、いままで無敵だった植物と、どんな植物も食べつくしてきた虫との戦いなのですから」
「虫は勝ちそうか」
「虫は力を合わせて、怪植物にむかっています。植物も苦しいようです。タネを作って宇宙へ投げ上げるどころではないようです……」
 キダはいちいち報告した。月の基地では、だれもが成功を祈りながら聞いていることだろう。基地からは、また質問してきた。
「飛び出してくるタネは、めっきり少なくなった。地上ではうまくいっているのか」
「いや、なんともいえません。植物のほうは、虫を退治しようと、ネバネバした液を出しはじめました。それがくっつくと、虫の動きが弱まるようです」
「はっきりいって、どうなりそうだ」
「わかりません。虫のほうも、同じように液体を口から出しています。植物の液の作用を、やわらげるためのようです。しかし、正直なところ、虫のほうが、少し押されぎみのように見えますね……」
「それは困ったな」
 月の基地ではがっかりしたらしく、ため息のまざった声が伝わってきた。ミノルたちもそうだった。もし、この作戦が失敗に終ったら……。
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