わがままな大男

 むかしむかし、あるところに、広くてきれいな庭(にわ)がありました。

 子どもたちは、その庭で遊ぶのが大好きです。
 ある日の事、その庭に恐ろしい声が響きました。
「わしの庭へ、勝手に入るな!」
 長い間いなかった、庭の持ち主が帰って来たのです。
 持ち主は、わがままな大男でした。
「出て行け! わしの庭はわしだけの物だ!」
 怒鳴られた子どもたちは、大あわてで庭から逃げ出しました。
「いいな、二度と入ってくるなよ」
 大男は高いへいで庭を囲むと、大きな立て札を立てました。
《入るな!》
 子どもたちの大好きな遊び場所が、なくなってしまいました。
「あーぁー、大男の庭は、きれいで楽しかったな。もう遊べないのか・・・」
 子どもたちは冷たくて高いヘいにもたれて、ため息をつくばかりです。
 
 やがて寒い冬が終わって、春がやって来ました。
 けれど大男の庭には、雪が降り積もったままです。
 春になったのに、雪はいつまでたっても溶けません。
 夏になっても、秋になっても、大男の庭には春はやって来ませんでした。
 ずっと、寒い冬のままです。
「なぜ、いつまでも冬ばかりが続くのだろう?」
 寒さに震えた大男は、ひどい風邪をひいてしまいました。
 
 ある朝、大男はスズメの鳴き声で目を覚ましました。
「ああ、なんていい声なんだろう。それに暖かだ。・・・うん? 暖か? それになんだ、この声は?」
 大男は飛び起きて、庭を見ました。
 庭には花が咲き乱れ、すっかり春の庭になっていたのです。
 その春の庭で、子どもたちが遊んでいます。
「大男は、きっとどこかに行ったんだ」
 子どもたちは大男が風邪で寝ているとは知らずに、庭に入り込んだのです。
「キャハハハハ」
 子どもたちが笑うたびに雪は溶けて、花が開きました。
「そうか、わかったぞ。子どもが遊ぶから、春も夏も秋もやって来るのだ」
 大男は庭に出ると、木の下にいる小さな子どものところへ行きました。
 みんなが木に登っているのに、その子は小さ過ぎて登れないでいたのです。
 大男は小さな子を抱きあげると、そっと枝に乗せました。
「ありがとう」
 小さな子はニッコリ微笑むと、大男にキスをしました。
 大男もニッコリ微笑むと、周りにいる子どもたちに言いました。
「聞いてくれ、子どもたち。たった今から、ここはみんなの庭だ。たくさん遊んでくれ」
 大男はそう言って、高いへいを壊しました。
 その日から子どもたちは毎日やって来て、すっかり優しくなった大男と遊ぶ様になりました。
 けれども、大男にキスしてくれた小さい子が来る事はありませんでした。
「わしが木の枝に乗せてやった、小さい男の子を連れて来ておくれ。あの子に会いたいんだよ」
 大男は子どもたちに頼みましたが、でも小さい子がどこにいるのか、何という名前なのか、誰も知りません。
 大男は何年も何年も、小さい子を待ち続けました。
 やがて大男は、すっかり年を取りました。
 おじいさんになってしまい、子どもと遊ぶ力もなくなってしまいました。
 
 また、冬になりました。
 大男の庭は、雪と氷に包まれています。
 でも大男は、寒いとも冷たいとも思いません。
 もうすぐ春が来る事を、知っていたからです。
 
 ある朝、目を覚ました大男は、庭を見て叫びました。
「あの子だ!」
 まっ白い花が咲いている木の下に、あの小さい男の子がいたのです。
 大男は急いで庭に出て行くと、小さな子をしっかりと抱きしめました。
「来てくれるのを、ずっと待っていたんだよ。ずっとずっと、会いたかった」
 小さい男の子も大男を抱きしめると、ニッコリ笑って言いました。
「いつかは、あなたの庭で遊ばせてくれてありがとう。今日はぼくが、あなたを連れて行ってあげるよ。天の上にある、ぼくの庭へ」
 そう言って、あの時と同じ様に大男にキスをしました。
 
 タ方、やって来た子どもたちは、死んでいる大男を見つけました。
 白い花に包まれた大男は、幸せそうにニッコリ微笑んでいました。
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