クルミ割り人形とネズミの王さま

 むかしむかしの、あるクリスマスの前の晩でした。

 女の子のマリーは、お父さんとお母さんから、とってもすてきなプレゼントをもらいました。
 おいしそうなお菓子、おもちゃのウマ、ネジで動く兵隊(へいたい)さん、それから、とてもすばらしいお城。
 その中でマリーが一番気に入ったのは、変なかっこうをしたクルミ割り人形でした。
「あたし、あなたが大好きよ」
 マリーがクルミ割り人形を抱いて、そう言った時です。
 突然そこへ、何十匹ものネズミの大軍が押し寄せて来たのです。
 すると、どうでしょう。
 今までジッとしていた人形たちが動き出して、ネズミの大軍と戦争を始めたではありませんか。
 もちろん、マリーに抱かれていたクルミ割り人形も立ちあがって、いさましく戦いました。
 ところが、ネズミは大勢です。
 人形たちは、負けそうになりました。
 そこで思わずマリーは、自分のクツをネズミの大軍に投げつけたのです。
 ネズミたちはビックリして、逃げて行きました。
 
 次の晩、またネズミの大軍がマリーの部屋にやって来ました。
「おい、ちびすけ。おれたちにお菓子を寄こせ。寄こさないと、クルミ割り人形を殺してしまうぞ」
 ネズミたちはこう言って、マリーをおどかしました。
 マリーはクルミ割り人形をしっかり抱いて、首を振りました。
 ところが次の晩も、その次の晩も、ネズミたちはやって来るのです。
「ぼくに、刀を貸してください。そうしたら、ネズミたちをやっつけてやります」
 ある晩、クルミ割り人形が言いました。
 そこでマリーがおもちゃの刀を持たせてやると、クルミ割り人形はネズミの王さまと戦って、とうとう王さまを倒してしまいました。
「刀を貸してくれてありがとう。お礼に、あなたを人形の国に連れて行ってあげましょう」
 クルミ割り人形は、マリーを楽しい人形の国へ連れて行ってくれたのです。
 
 朝になって、マリーは家の人にその話をしました。
「マリー、それは、あなたが夢を見ていたのよ」
 お母さんが、言いました。
「そうだよ。だいたい、そんなばかな事があるはずないじゃないか」
 お父さんも、言いました。
(そうね。夢だったのかも)
 ところが、それから何年かたったある日の事です。
 マリーの家に、立派な若者が訪ねて来ました。
 玄関に出たマリーを見ると、若者はやさしい目でほほえみます。
 始めて見る顔ですが、マリーは若者とどこかで会った様な気がしました。
「・・・あなたは、だあれ?」
「わたしは、あなたのおかげで人間に戻る事が出来たクルミ割り人形です。
 子どもの頃、ネズミののろいを受けて人形にされてしまいました。
 でも、あなたが貸してくれた刀でネズミの王さまを倒し、やっと人間になれたのです」
 それを聞いて、マリーはすっかりうれしくなりました。
「どうか、わたしのお嫁さんになってください」
「はい」
 マリーは若者のお嫁さんになって、銀のウマが引く金の馬車に乗って、若者と一緒に出かけて行きました。
 
 これはマリーの夢なのか、それとも本当の事なのか、マリーにもわかりません。
 本当なら、すてきですね。
 
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