『ケンブリッジ見聞録』02

そしてケンブリッジの夜は更ける

 
ケンブリッジに到着したわれわれを迎えたのは、受入先のプロフェッサーの大変有能な秘書、ペニーさんである。年の頃50前後。
 
彼女は3時間も到着が遅れたわれわれを、オフィスで仕事をしながら待ちつづけていた。というのもこのあと宿泊場所に案内して、
 
さらに食事を共にすることになっていたからである。仕事とはいえ大幅な残業である。そんなことを意に介さない彼女は、相当な仕
 
事好きであることを窺わせる。
 
ペニーさんが用意してくれた宿泊場所はホテルではなく、ケンブリッジ大学の中のピータハウスというカレッジのゲストハウスだっ
 
た。古いカレッジの建物の一角にまるで隠れ家のようである。これだとホテルよりずっと安くあがる。間取りはベッドルームと居間
 
兼食堂、小さなキッチンと洗面所。シャワーだけでバスタブはない。家具はベッドが2つ、傾いたタンスが2つと折りたたみテーブ
 
ルが一つ、そしてなぜか椅子だけは肘掛け付きが4、肘掛けなしが3と、豪勢に7脚もある。それからタオルやシーツのリネン類が
 
数セット。キッチンには最低限の食器のセットと調理道具がそろっており、冷蔵庫には彼女が用意してくれた朝食用の食料が少し、
 
それからインスタントコーヒーとティーバックの紅茶。お米の国から来たわれわれのために、タイ米も用意してある。がらんとした
 
部屋の様子に少し戸惑いながら、彼女の親切が身にしみる。ここで数週間を過ごしながらその間に住む家を探すのである。
 
食事はタイ料理のレストランに連れて行ってもらった。これもアジアからきたわれわれのための彼女の心尽くしである。ケンブリッ
 
ジに日本料理店はないとのこと。タイ料理の隣はインド料理店、その反対側はアジア系の食材を扱う店である。それもあってここを
 
選んでくれたらしい。われわれの宿泊場所はまさにケンブリッジの中心部にあたり、ここは歩いて5分くらいのケム川の対岸に位置
 
している。川のほとりは野外でビールを飲んでは談笑する人々でにぎやかである。名物のボート(PUNTS)に乗っているグループもい
 
る。うむ、これがケンブリッジの学生たちか。騒いでいるところは日本の大学生と変わらないが、きっと何倍も勉強するのだろう。
 
毎日こんな風に騒いでいるのかとペニーさんに聞いたが、今日は週末だし、今週からお天気が急によくなったから出歩いているのだ
 
ろうという。それまでは寒かったらしい。実は夫は晴れ男である。われわれを迎えるためにケンブリッジも陽気がよくなったらしい
 
。わはは。
 
日本からの彼女へのお土産は扇子とハンカチのセット。それからうちにあった豆粒ほどの雛人形。日本人の受け入れに慣れている先
 
だと、やたらと豪華なガラスケース入りの藤娘の人形やらジャパニーズなものを持っているものである。そんな自分たちも使わない
 
ような古典的なものを贈ってどうするのだ。扇子はボーダーラインかな。喜んでくれたようで何よりである。
 
満腹になったところでゲストハウスに戻る。明日は土曜日で休みであるが、ペニーさんが夫の同僚となる人と私の英語学校の世話を
 
してくれる人を紹介するために食事に行こうという。つくづく仕事熱心な人である。喜んでそのお誘いを受け、彼女を送り出して顔
 
を洗うのもそこそこにベッドに潜り込んだ。
 
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