最后的朋友 第五回

『衝撃の一夜』 

 
美知留(長澤まさみ)は、シェアハウスの前でずぶ濡れになって 
うずくまっている宗佑(錦戸亮)を見つける。 
「僕は…いつも…君を待ってる。」 
その言葉に、思わず宗佑を抱きしめる美知留…。 
 
そんな美知留の様子を見ていた瑠可(上野樹里)は、 
二人には声をかけずにそっと家に戻る。 
「おはよう。」タケルが起きてきた。 
「…おはよう。」 
「あれ?生ゴミは?」 
「今、出した。」 
「…美知留ちゃんは?」 
「…」 
その時瑠可の携帯が鳴る。美知留からだった。 
「瑠可?あのね、私、これから美容室に行ってくる。」 
「美容室…」 
「…店長さんには御世話になったし、 
 やっぱりこのままズルズルはやめられないから。 
 一度、顔出さないとと思ってて…。」 
美知留はタクシーの後部座席に、眠っている宗佑と一緒にいた。 
「…そう。これから行くんだ。」 
「すぐ戻るから、心配しないで。」 
「わかった。」 
「じゃあ。」 
 
「何?美知留ちゃんから?」エリ(水川あさみ)が聞く。 
「うん。美容室に、挨拶しに行ってくるって。」 
宗佑のマンション 
宗佑の熱を測ってみると、39度1分もあった。 
「やっぱり熱がある。 
 一応、薬あるけど、あとで必ずお医者さん行ってね。 
 鍋に、おかゆ作ってあるから、あとで食べてね。 
 じゃ、私は。」 
帰ろうとする美知留の腕を掴む宗佑。 
「行かないで。」 
「…」 
「行かないで、美知留。」 
「宗佑…。 
 帰らなきゃ。」 
「帰るの?ずっとここにいて。」 
「…ダメだよ。 
 私は…もう宗佑と一緒にはいられない。 
 また同じことの繰り返しになる。」 
美知留は宗佑から目をそらしてそう言う。 
「もう二度としないから…。」すがるような目で美知留を見つめる宗佑。 
「…宗佑。 
 我慢の出来る人になって。 
 私とずっと一緒にいたくても、仕事場の前で待ったり、 
 マンションの前で待ったり、 
 友達を待ち伏せてつけたり。 
 そういうことを、しないでいられる人になって。 
 そしたら、私はいつか、宗佑のところに戻ってこられる。」 
「…」 
「お願い。」 
「…」 
 
宗佑のマンションを出た美知留は、欠勤を続けていた美容室を訪れ、 
店長の小百合(蘭香レア)に謝罪する。 
「何日も休んで、ご迷惑をおかけしました。」 
「辞めるならどうぞご自由に。 
 さっさと帰って頂戴。」 
「すみません、店長。」 
「何?」 
「私…働きたいんです。 
 またここで、働かせて下さい。」 
「あのね!」 
「何でもしますから。 
 もう、迷惑をかけるようなことは、一切言いませんから。」 
 
同じころ、瑠可はモトクロスの練習をしていた。 
が、美知留が宗佑を連れて行くところを偶然目撃していた瑠可は、 
美知留のことが心配で練習にも身が入らなかった。 
「何やってんだ!もっと慎重にやれよ!」 
林田監督(田中哲司)が叱る。 
「はい!すみません。気をつけます。」 
「怪我したら元も子もないんだぞ。」 
「…はい。」 
 
シェアハウス 
「ただいま。」瑠可が戻ってきた。 
「お帰り!」とタケル(瑛太)。 
「何やってんの?」 
「みんなの食器、磨いてた。 
 結構、茶渋が付いてるんだよね。」 
「へ~。ありがと!」 
 
「瑠可。お帰り!」エリと友彦(山崎樹範)もやって来た。 
「ただいまー。 
 …美知留は?」 
「あ…まだだよ。 
 美容室に、挨拶に行ったっきり。」とタケル。 
「そうか…。」 
「…ね、やっぱりその美容室で彼に連れていかれて今頃…」と友彦。 
「ちょっと!」エリが叱る。 
そこへ美知留が戻ってきた。 
「ただいま!」 
「お帰り!」 
「美容室、随分手間取ったね。」と瑠可。 
「ごめんね。 
 あ、瑠可。 
 私、やっぱりもう1度、あそこで働く事にしたの。」 
「え…」と友彦。 
「でも、それって…あいつの知ってる場所でしょう? 
 危なくない?」とエリ。 
「自分さえしっかりしていれば、大丈夫だと思う。 
 もう、宗佑の言いなりにはならない。」 
「え…でも…どう…なの?」エリがみんなを見渡す。 
「美知留ちゃんがそう思うなら、それでいいんじゃないかな。」 
タケルの言葉に嬉しそうに微笑む美知留。 
「本当に、大丈夫?美知留。」と瑠可。 
「うん。心配しないで。」美知留が微笑む。 
「うん。」 
「美知留ちゃんに、これ、鍵、渡しておくね。 
 今日から、美知留ちゃんもこのシェアハウスの一員ってことで。  
 OK?」とエリ。 
「OKです!よろしく!」 
「よろしく!」 
   
翌日 
仕事中のタケルの携帯が鳴る。 
「もしもし?」 
「ちょっと頼みごとがあるんだけど。いいかな。」 
モトクロス練習場から電話で話す瑠可。 
 
店の片付けをしながら、いつも宗佑がいた場所を見てみる美知留。 
宗佑はいなかった。 
 
店を出ながら携帯を操作する美知留。 
メールか着信のチェック? 
少しがっかりしたようにも見えました。 
 
そんな美知瑠を、タケルが待っていた。 
「タケル君!」 
「お疲れ!」 
「わざわざ、迎えてに来てくれたの?」 
「ああ、あの…SP代わり? 
 ていうか今夜、瑠可の三鷹の家でパーティーがあるんだって。  
 で、美知留ちゃんを、連れてきてって瑠可に言われて。」 
「へー!パーティー?」 
 
タケルとともに瑠可の実家を訪れた美知留 
「こんばんは!」 
「美知留ちゃん!久し振り!」と 
 母親の陽子(朝加真由美)。 
「久し振りです。」 
「まあ、綺麗になっちゃって。 
 どうぞどうぞ!美味しいご馳走、待ってるわよ。」 
「美味しいご馳走とか自分で言うか普通。」と瑠可。 
「今晩は。」タケルも挨拶する。 
「あなたがタケル君?」 
「はい。」 
「そう。カッコイイのね! 
 美知留ちゃんの彼?」 
「…じゃ、ありません。」とタケル 
「じゃあ…ってことは…」と陽子。 
「あーもう、どうでもいいからさ、ね!早く座って座って!」と瑠可。 
「いらっしゃい。」「こんばんは!」 
父親・修治(平田満)と弟・省吾(長島弘宜)も挨拶する。 
 
テーブルにつく5人。 
「あー、すごいですね。 
 これ、全部お母さんが作られたんですか?」とタケル。 
「カルチャースクールで覚えたての料理、みんなに食べさせたくて 
 しょうがないみたい。」と瑠可。 
「味の保証はしかねますけど、どうぞ。」と修治。 
「あら!岸本さんは筋がいいって褒められたのよ!」 
「エリとオグリンも誘ったんだけど、 
 今夜は二人映画デートだって。」と瑠可。 
「そうなんだ!」と美知留。 
「今ね、ローストビーフ出すからちょっと待っててね!」 
「あ、私、手伝いますよ。何でも言って下さい。」と美知留。 
美知留が陽子を手伝う。 
 
「美知留ちゃんはほんっとよく気が利くし、 
 女の子らしいのよね! 
 瑠可に爪の垢、煎じて飲ませたいくらいだわ!」と陽子。 
「僕も手伝います! 
 いい香りですね!ローズマリーですか?」とタケル。 
「わかる!?料理得意なの?」 
「ええ、バイトがらみで、料理は多少勉強しています。」 
「違うのね、最近の男の子は。」 
「いえいえ。」 
「瑠可!少しはあなたも、見習いなさいね。」 
「もうどうでもいいからさ、早く食べようよ!」 
「その乱暴な言葉遣い、いい加減直しなさいよ! 
 お嫁に行ってから困るわよ。」 
「嫁になんか行かないし。」 
「失礼ねー。連れてきた人の前で。 
 そんなそっけないこと言っていいの? 
 ね!」タケルに微笑みかける陽子。 
「さ、始めようか。」と修治。 
「いただきまーす!」 
 
その頃、友彦とエリはタクシーの中からある家を見つめていた。 
「どう?行けそう?」とエリ。 
「…うん。行くよ。行かなきゃな…。」 
そう言いゆっくりと息を吐く智彦。 
「離婚届も…判子も持ったし。 
 ちゃんと…話つけてくるよ。 
 さっさとさ。」 
「うん。 
 じゃあ…頑張って!」 
「おぉ。」 
 
岸本家 
タケルがトイレから出るのを省吾が待っていた。 
「ね、姉貴の彼氏なの?」 
「え…いや。」 
「姉貴が男の人連れてきたのって、初めてなんだよね。 
 うち的には、大事件!」 
「そうなんだ。」 
「姉貴もさ、相当な変わり者だけど、 
 多めに見てやってよね。」 
「うん。わかった。」楽しそうに笑うタケル。 
 
「でも、久し振りで本当に楽しかった。 
 昔よく、お夕飯ご馳走になりましたよね。 
 瑠可の部屋で、試験勉強してて、遅くなっちゃって。」 
「ね!もう遅いから美知留ちゃん泊まってったら?」と陽子。 
「おお。」と修治。 
「そうすればいいよ。」と瑠可。 
「でも…迷惑じゃない?」と美知留。 
「ううん。全然! 
 タケルも泊まっていけば?」 
「え…俺? 
 いや俺は帰るよ。」 
 
タクシーの料金が3590円に上がり、少し苛々した様子で智彦を待つエリ。 
そこへ友彦から電話が入る。 
「ごめん。やっぱ、すぐに話…終わらなくて。」 
「あー。」 
「今夜、こっちに泊まっていくから、 
 やっぱ、帰ってて。 
 ほんと、ごめんね。じゃあ。」 
エリは携帯を閉じると、大きなため息をつき…。 
 
オグリンが話し終わる前にエリは携帯を 
閉じようとしていました。 
ショックだったのかな。 
今回、エリとオグリンはセットで登場するシーンが何度かあって、 
二人の親密さを感じていたんですが…。 
 
遠慮して岸本家を後にしたタケルは、シェアハウスに戻る。 
すると、エリがひとりでグラスを傾けていた。 
「おかえりー!」上機嫌なエリ。  
「あれ?」 
「ね、一緒に飲もう!じゃんじゃん飲もうよ! 
 私明日仕事ないから大丈夫なんだー!」 
「オグリンは?」 
「え?今夜は奥さんとこ泊まるんだって。」 
「あ、そう。」 
「帰ってくんのかなー、あれは。 
 全然わかんない。」 
「え、そういう雰囲気なの?」 
「そ! 
 まああいつはね、元々奥さんに未練たっぷりだったからね。」 
ワインをこぼすエリ。 
「あー、こぼしてるよ。 
 結構飲んだんじゃないの?」 
「うん…」 
こぼしたワインをふき取るタケル。 
「ねえタケル。」 
「うん?」 
「私って、いい女?」 
「うん?」 
「結構いい女だよね。 
 美人だし、性格もさ、ネチネチしてなくて、 
 竹を割ったみたいだーなんてよく言われるんだ!」 
「エリは綺麗だよ。 
 それに…うん、すごく優しいし。」 
「…」 
「ここ拭くよ。」 
ワインで汚れたエリの服をタオルで拭きとるタケル。 
エリはタケルの手に自分の手を重ねる。 
「…優しいのはタケルじゃん。」 
「…」 
タケルに両腕を回すエリ。 
「美知留ちゃんと瑠可は?」 
「…瑠可んち泊まってるよ…。」 
「じゃあ今夜は誰も帰ってこないね。 
 タケル!どうにかなっちゃおっか。」 
「…」 
エリはタケルにキスをし、シャツのボタンを外していく。 
その瞬間、言いようのない嫌悪感に襲われたタケルは、 
エリを突き放し…。 
 
タケルは洗面所で、キスされた口を洗い続け…。 
 
タケルがエリのいる居間に戻る。 
「…ごめん。 
 エリが…ダメっていうわけじゃなくって。」 
「こっちこそ…ごめん。 
 そっか…。タケルってやっぱ…そうなんだ。」 
タケルが頷く。 
「そっかなとは思ってたんだけど…そっか。 
 じゃああれだ。まんま、友達でいよう!ね!」 
タケルがもう1度頷く。 
「飲みなおそっか!飲もう飲もう!」 
 
エリに本当のことを話せないタケルは、 
自分はゲイだということにしておいた。 
上手く説明出来ないから、そう思われても構わないと思ったのか、 
その方がエリを傷つけないと思ったのか。 
 
オグリンと一線を越えたあと、エリはいつもオグリンと一緒に 
行動していたような気がします。 
オグリンが自宅に帰ってしまったあとのエリは寂しそうで… 
でも彼女の性格上、強がって、そして寂しさを紛らわせようと 
タケルにキス。 
エリはもしかしたら今まで不倫ばかりしてきたのかもしれませんね。 
 
瑠可の部屋 
「ごめんね。ベッド占領しちゃって。」 
「ううん。こっちも案外落ち着くし。」 
ベッドの脇に布団を敷きながら瑠可が言う。 
「懐かしいな。瑠可のこの部屋。 
 変わってない。 
 瑠可のお父さんも、お母さんも、変わってない。 
 いい家族だよね。 
 私も、こういう家を作りたかったんだ。 
 早く家を出て、幸せになりたかった。」 
「…あの男とは無理だよ。 
 キツいかもしれないけど、美知留のために言っとく。 
 あの宗佑ってヤツ…美知留を幸せに出来る男じゃない。 
 あ、タケルってどうよ!?」 
「え!?」 
「タケルみたいなヤツだよ。人を幸せに出来るのは。 
 美知留もああいうやつ好きになればいいのにな!」 
「瑠可は、どうなの? 
 瑠可は、誰かを好きになったことって、ないの?」 
「え…」 
「考えてみたら、中学の頃から瑠可の好きな人の話って 
 聞いたことない。 
 いっつも私の方が、相談に乗ってもらってて。」 
「そうかな。」 
「うん。 
 好きな人、いないの?」 
「…いるよ。 
 ずっと前から、ずっと思ってる。」 
「ずっと前って、いつから?」 
「何年も。」 
「その人は、知ってるの?瑠可の気持ち。」 
「気づいてない。」 
「伝えないの?」 
「伝えない。伝えたってしょうがないし。」 
「何でしょうがないの? 
 そんな風に決め付けることないよ。 
 だってさ、」 
「しょうがないものはしょうがないの! 
 …いいじゃん、こんなことどっちでもさ。 
 私は、美知留に元気になってほしかった。 
 自分を取り戻してほしかった。 
 だからここに連れてきたんだよ。」 
「…そっか。 
 ごめんね、瑠可。心配かけて。」 
瑠可は首を横に振り…。 
 
翌朝、シェアハウス 
ソファーで眠ってしまったエリに布団をかけ直すタケル。 
 
コーヒーを飲みながら、マグカップの取ってをなぞるタケル。 
 
「人はいつだって、人が思うほど単純じゃない。 
 胸に小さな秘密や、悩みを抱えて生きている。 
 瑠可… 
 僕らはいつか、幸せになれるんだろうか。」 
 
モトクロス練習場 
瑠可のバイクには美知留がくれたお守り。 
 
「美知留。 
 私に出来ることは…もう何もない。 
 あなたが、自分で自分を救うのを、待っているしか…。」 
 
美容室 
昼休み中、迷いながら携帯をチェックする美知留。 
着信も、メールも届いていなかった。 
 
美知留は宗佑の仕事先に電話をしてみる。 
「はい、児童福祉課です。」 
「あの…及川宗佑さんは…」 
「及川ですか?少々、お待ち下さい。」 
「あ!繋がなくて結構です。 
 そちらに今いらっしゃるかどうか知りたいだけなので。」 
「すみません。及川は風邪で、この1週間欠勤しておりますが。」 
「あ…そうですか。」 
 
その日の夜、美知留は宗佑のマンションを訪ねていく。 
インターホンを鳴らしても応答はなく、 
美知留は鍵を開けて部屋の中へ。 
「宗佑?」 
「美知留…」宗佑はベッドで横になっていた。 
「ごめん。どうせ、新聞の勧誘か何かだと思ったから。」 
咳き込む宗佑。 
「大丈夫?具合悪そうだね。 
 熱は…ないみたいだけど… 
 でも…痩せた。」 
「君がいないから、食べる気に、ならないんだ。」 
「ダメだよ。ちゃんと食べないと。 
 今おかゆ作るから。」 
「…」 
 
「食べて。」 
宗佑におかゆを食べさせる美知留。 
「…美知留がいてくれるなら、ずっと病気でいたいな。」 
「…長くはいられないの。 
 宗佑が食べ終わったら、帰るね。」 
「帰さない。」 
宗佑は美知留を抱きしめる。 
「…宗佑やめて。 
 今こんなことしたら絶対にダメ。 
 ねえわかって。ね、宗佑…。」 
宗佑の腕から離れる美知留。 
「…ごめんね。 
 今日は帰るから。」 
「何でこんなになっちゃったんだ…。 
 君をこんなにしたやつが憎いよ。 
 タダじゃおかない。あの瑠可ってやつ!」 
「そんなこと言わないでって言ったでしょう! 
 約束を守れない人と、私いられないよ一緒に。」 
「それはこっちのセリフだ! 
 約束を守れないのはそっちだろう!」 
宗佑はそう怒鳴ると、茶碗を壁に投げつける。 
「やめて…。」 
宗佑は美知留をベッドに押し倒し…。 
 
シェアハウス 
「熱いうちに召し上がれ!」 
タケルがパエリヤをテーブルに置く。 
「そんなこと言わなくても食べるよ!」と瑠可。 
「いただきまーす!」とエリと瑠可。 
「やったね!」と瑠可。 
「どうかなどうかな?」とエリ。 
パエリアを口に運ぶ二人。  
「うんまい!これ本場のスペインの味だよ。 
 すっごいね!タケル! 
 やっぱね、一家に一人は欲しいよね、こういう男!」とエリ。 
「うんうん!美味い!」 
二人の喜ぶ顔に微笑むタケル。 
「あれ?美知留ちゃん遅いね。」 
「そうだね。 
 でも、美味いもんは早い者勝ちだからさ!」と瑠可。 
「そういうことじゃなくて!」とエリ。 
 
「ただいま!」美知留が笑顔で帰宅する。 
「お帰り!」とエリとタケル。 
瑠可は無言。美知留の顔を見ようともしない。 
「最後のお客さん注文が多い人で、 
 いろいろやったら遅くなっちゃって。」 
「早く食べなよ。パエリヤ冷めるよ。」瑠可は笑顔でスプーンを渡す。 
「わぁ美味しそう! 
 あ、これ、タケル君が?」 
「うん。 
 あ、食器持ってくるね。」 
「いいよ。私がやる。」 
「大丈夫大丈夫!」 
「でもタケル君も食べるでしょう?」 
二人は台所へ。 
 
食器棚から皿を取り出すタケル。 
「ごめんね。」 
「はーい。」 
タケルは美知留に皿を渡したとき、彼女の腕に傷があることに気づく。 
その視線に気付いた美知留は慌てて服で傷を隠し…。 
 
「ねえ…オグリンはまだ帰って来ないのかな?」 
美知留はそう言いながらリビングに戻っていく。 
「うーん、ていうかね、もう帰って来ないんじゃない? 
 あいつ奥さんとより戻す気かもね。」とエリ。 
「いい加減なヤツだなー。エリにずるずる頼ってたくせに。」と瑠可。 
「いいのいいの!私だって最初から期間限定のつもりだったし。」 
「なんだよそれ。」と瑠可。 
タケルの視線に俯く美知留。 
その時、美知留の電話が鳴り、4人の間に緊張が走る。 
「ごめんね。」携帯を手に席を外すと、美知留は廊下で着信を確認。 
ほっとして電話に出る。 
「もしもし。藍田ですけど。 
 はい。わかりました。 
 じゃあ明日、30分早く行くようにします。 
 はい。じゃあ失礼します。」 
 
「美容院の人?」エリが聞く。 
「うん! 
 明日、早い時間帯に予約が入ったから、少し早めに来てくれって。」 
「…美知留まだその携帯使ってんの?」 
「…うん。」 
「捨てなよその携帯。 
 それが鳴るたびにこっちもビクっとする。 
 美知留があいつに付けねらわれてるみたいな気持ちになる。」 
「… 
 わかった。捨てるね。」 
美知留は携帯を手に台所のゴミ箱に向かう。 
「…待って! 
 いいよ。捨てなくていい。」瑠可が止める。 
「…」 
「こんなの嫌だ。これじゃまるであんたの彼とやってることと 
 変わらないよね。」 
「瑠可…」 
「ちょっと走ってくる。」 
瑠可が一人出ていく。 
 
瑠可は自転車で夜の街を走りぬけ…。 
 
瑠可と一緒にタケルが作ったパエリヤを食べるエリは、 
タケルとキスをしたことなど本当に無かったように振る舞います。 
タケルもそんなエリを見て、安心したようです。 
あれで気まずくなってしまったら、タケルはシェアハウスを 
出ていってしまったでしょう。 
タケルとエリのキスの秘密は、封印されました。 
 
宗佑に襲われた美知留は、何事もなかったかのように帰宅。 
それは自分の為?宗佑の為?瑠可の為? 
もしこのことを瑠可が知ったら、宗佑のもとに走り出したでしょうね。 
宗佑は瑠可に対して憎悪の気持ちを抱いているし…。 
その感情がどう爆発するのか、怖いです。 
 
シェアハウス 
タケルと話す美知留。 
「わかってるんでしょう? 
 私が瑠可に嘘をついていること。 
 タケル君にはわかられてる気がするんだ。」と美知留。 
「…彼に会ったの?」 
「…うん。 
 一緒にいても、幸せになれない人だって、瑠可に言われた。 
 その通りだと思う。 
 段々…わかってきた。 
 でも…まだ…彼に惹かれてるの。 
 宗佑を…好きじゃなくなりたいのに…。 
 なりきれない…。」 
「しょうがないよ。 
 彼が、変わるのを待てるか… 
 待てずに、心が離れていくか… 
 決めるのは、他の人じゃない。 
 …自分だけだから。」 
「…優しいね、タケル君。」美知留がやっと微笑む。 
「うん?」 
「タケル君みたいな人を好きになればいいのにって、 
 瑠可が言ってた。」 
「瑠可が?」 
「うん。 
 瑠可もね、好きな人がいるんだって。」 
「…」 
「何年も前から、ずっと気持ち伝えられず、 
 思い続けてるんだって。 
 そう言ってた。」 
「…あ、そう…。」 
「人生って…簡単じゃないよね。 
 急いで幸せになろうとしても… 
 上手くいかない。」 
「…」 
 
部屋に戻ったタケルは、ベッドに腰掛け考え込み… 
大きなため息をつく。 
 
カウンセリングルーム 
「カウンセリング、受けるの初めてですね?」 
「はい。」と瑠可。 
「性同一性場外って言っても、その症状は人それぞれ違うんです。 
 本を読んで、自分の症状だと思い込んでこちらに来られますが、 
 実際には違うというケースもあるんです。 
 あまり性急に結論を出さないように、 
 慎重に考えていきましょう。」 
「…はい。」 
「自分が性同一性障害だと思うのは、どのような点ですか?」 
「自分の体が嫌なんです。」 
「どういう風に?」 
「小さい頃から、女の子の服を着させられるのが嫌で 
 仕方がありませんでした。 
 幼稚園の時も、スカートが嫌で、ズボン履いていました。」 
「今でもその違和感は続いていますか?」 
「続いています。 
 自分の、胸を見るのが嫌で。 
 シャワー浴びる時は、目をそらしています。」 
「相談相手とか、好きな人はいますか?男の人は?」 
「友達や仲間…って感じます。 
 恋愛感情を持ったことは、ありません。」 
「どんなことが、辛いんですか?」 
「身近な人たちに、本当の自分を、見せられないことです。 
 好きな人や、家族に、嘘をついて暮らしてる…。 
 それが苦しいんです。 
 時々たまらなく…。」 
 
カウンセリングを終えた瑠可は、タケルを呼び出す。 
 
公園を自転車を押しながら歩く二人。 
「何?話って。」とタケル。 
「いや…なんてことないんだけどね。 
 タケルの顔が見たくなった。」 
「はは。いや…いつでも会えんだろ? 
 同じところに住んでるんだからさ。」 
「タケルと二人がいいんだよ。何でかな。 
 タケルといると安心するんだよな。  
 自分を飾らなくて済む気がする。」 
自転車を停める二人。 
「五月晴れだなー! 
 紫外線が良くないとか言うけど、 
 素っ裸で日光浴したくなるよね。この空見ると。」と瑠可。 
「…瑠可。」 
「うん?」 
「好きな人がいるんだって?」 
「…」 
「美知留ちゃんから聞いたんだ。」 
「ああ。片思いもいいとこだけどね。」 
「そっか。」 
「そんなことより、今の私は、レース。 
 次の第5戦には絶対に勝たなきゃ。 
 日本選手権に出るためにもね! 
 強くなりたいんだ。 
 誰にも負けないぐらい、強い人間になって… 
 いつか堂々と、好きな人の前に立ちたいんだ。」 
瑠可の言葉に、タケルは笑顔を浮かべて頷き… 
そして切ない表情を浮かべる。 
 
「瑠可… 
 君の笑顔が好きだ。 
 君が誰を好きでもいい。 
 俺は…君を支えよう。 
 君の笑顔を。」 
 
このタケルのモノローグの時に流れた影像は、 
二人で自転車を走らせるシーン。 
「ちょっと!ちょっとねえ!スピード落として!」とタケル。 
「ヘタレ!この程度でビビんなよ。」笑顔の瑠可。 
二人が出会った時を思い出させるシーンでした。 
でも、二人の笑顔がとても楽しそうで…。 
 
モトクロス試合の日 
バイクのチェックをする瑠可に、林田が声をかける。 
「岸本!」 
「はい!」 
「今日は48秒切るつもりで行け。 
 48秒切ったら、お前を女じゃなく一人前のレーサーとして見てやる。」 
「…」 
「そしたら、飲みに行こう! 
 レーサー同士。な!」 
「はい!」 
 
観客席には岸本ファミリー、そしてエリと美知留。 
 
スタートラインに付いた瑠可は、美知留の姿を確認する。 
 
15秒前、目を閉じて集中する瑠可。 
そして、真剣な眼差しでまっすぐと前を見つめ… 
スタート! 
美知留たちが必死に声援を送る。 
 
そんな中、美知留の携帯が鳴る。 
宗佑からだった。 
携帯をバッグに戻す美知留だったが、電話は鳴り止まない。 
美知留は迷いながらも、席をはずし電話に出る。 
「はい。」 
「美知留…今どこ?」 
「。。。モトクロス場。」 
「会いたい。すぐに来て欲しいんだ。」 
「宗佑…」 
「具合が悪いんだ。」 
「…ごめん。行けない。 
 今、瑠可の大事なレース中なの。」 
「僕じゃなく、瑠可を取るんだね。」 
「違うよ! 
 。。。もう。。。宗佑のわがままに振り回されたくない。」 
「後悔するよ。今すぐ来ないと。」 
「あとにして。ごめんね。」 
美知留はそう言い電話を切ると、観客席に戻り瑠可を応援する。 
 
最後のカーブで瑠可は先頭に走っていたバイクを追い抜き、 
見事優勝! 
観客席にいる美知留のはじけるような笑顔に、 
瑠可はヘルメットを掲げて答えるのだった。 
 
その夜、タケルのバイト先のバーで、瑠可の優勝記念パーティーが 
開かれる。 
監督も、レーサー仲間も、瑠可の家族も友達も瑠可も、みんな笑顔。 
 
家族と乾杯する瑠可。 
「おめでとう瑠可!」 
「ありがとう!」 
「良かったな、おめでとう。」と父。 
「ありがとう。でもまだまだだよ。」 
「これでまだまだか?」 
「うん。 
 あと、残り5戦、全部ポイント取って、 
 日本選手権に出たい。 
 で、いつかアメリカの大会にも出たい。」 
「行けるよ!」と弟。 
「それで、そのあとに、やりたいこともある。」 
「そうか。」穏やかな笑顔を浮かべる父。 
「お父さんには、いつか話す。」 
「え?何でお母さんには話さないの?」 
「話すよー。もうわかったから。」 
 
岸本家の楽しそうな様子に微笑む美知留。 
 
レース仲間と話す瑠可。 
「岸本ってジャンプ上手いよね!」 
「そんなことないよー。」 
 
「瑠可、素敵だよね。」 
美知留がタケル、エリに言う。 
「俺も見たかったなー。」とタケル。 
「全日本クラスの記録だったんだって!すごくない!?」とエリ。 
「でも。。なんか遠い人になってっちゃうみたい。」と美知留。 
「何言ってんの。そんなことないよ!ね、タケル!」 
「。。うん!」 
  
そんな中、美知留の携帯が鳴る。 
「ちょっと、ごめんね。」席を外す美知留。 
 
そんな美知留を瑠可が見ていた。 
  
「もしもし。」 
「美知留?」 
「さっきは、ごめんね。 
 今すぐ行くから、待ってて。」 
「もう…来なくていいよ。」 
「。。。何で?」 
「僕…死ぬことにした。」 
「え…」 
「これから死ぬ。 
 さようなら。」 
そう言い電話を落とした宗佑は、包丁を手に取り。。。 
 
電話を落としたのと同じタイミングで 
エリがワイングラスを落とします。 
 
店を飛び出していく美知留を、割れたグラスを片付けながら 
タケルとエリが不思議そうに見つめる。 
  
美知留が店を出ると、瑠可が店の前のベンチに座って待っていた。 
「美知留! 
 どこ行くんだ、美知留。」 
「。。。」 
「あいつのとこ?」 
店からタケルとエリも出てきた。 
「。。違うよ。ちょっと先に、帰ってるだけ。」 
「嘘つくなよ!」 
二人に駆け寄ろうとするエリをタケルが止める。 
「知ってたよ。 
 あなたが嘘ついて、彼と会ってたの。 
 でも黙ってた。 
 いつか気づいてくれるだろうと思って。」 
「。。。」 
「強くなれよ美知留。 
 もっと強くなれるはずだよ。 
 何で負けちゃうんだよ。」 
美知留は泣きながら答える。 
「私…弱虫だもん。 
 瑠可はいいよ。 
 瑠可は…強くて…素敵で…家族に愛されてて。。。 
  
 才能があって。。。 
 そうやって…輝いてて。。。 
 でも私は…弱虫だから。。。 
 宗佑の弱さがわかる。」 
「。。。」 
「。。。今は。。。彼の側にいてあげたいの。 
 ごめんね。。。」 
美知留はそう言い、瑠可の前から走り去る。 
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