点と線(五)第一の疑問01

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 鳥飼重太郎を見て、微笑して立ちあがった男は、三十をいくつも出ていないように思われた。背は高くないが、がっしりとした体格で、なんとなく箱を連想させた。だが、顔は血色のいい童顔で、濃い眉毛とまるっこい目をもっていた。
「鳥飼刑事さんですか? 警視庁捜査二課の警部補三原紀一(みはらきいち)と申します。よろしく」
 彼は真白い歯を出して、にこにこして名刺をくれた。
 捜査二課と聞いて、鳥飼はすぐ、情死した佐山課長補佐のことを調べに来たのだと直感した。捜査一課なら強力犯(ごうりきはん)の係だが、二課はいわゆる知能的犯罪の捜査であった。
 いま東京では××省の汚職事件の進行で、新聞は大さわぎをしている。佐山憲一の属していた課がその中心であった。現に佐山と同僚である課長補佐が一名逮捕されていた。つい一週間ばかり前は、その省と密接な関係にある有力な民間団体の首脳部から二名の拘置者が出た。事件はまだ発展しそうであった。警視庁捜査第二課はその捜査に当たっている。
「じつは、当地で情死した××省課長補佐の佐山憲一のことを少し調べに来たのですが」
 椅子に落ちつくと、捜査二課の三原警部補は切りだした。はたしてそのことだった。
「だいたいの事情は、いま部長さんからうけたまわりました」
 三原は横の刑事部長をちょっと見て言った。部長はうなずいた。
「材料もこうして揃えていただきました。おかげで、たいへんよくわかりました」
 なるほど机の上には、現場状況の写真や死体検案などの書類が一そろいおかれてあった。
「しかし、鳥飼さんは、佐山の情死に何か疑問をお持ちだそうですね?」
 鳥飼は、ちらと部長の顔を見た。部長は煙草の煙を吐いて、
「鳥飼君。君がこの前、何か意見を言っていたろう。あれを三原さんに僕がちょっと話したら、たいそう興味を持っておられるようだ。よく話してあげてくれ」
 と言った。
「そうなんです。佐山の情死に異論をおもちだと部長さんからうけたまわって、たいへんおもしろく思ったものですから、あなたのお帰りを待っていたのです」
 三原のまるい目には愛嬌があった。部長は複雑な顔をしている。
「いや、異論というほど、はっきりしたものではありませんが、まあ、思いつき程度です」
 鳥飼は部長を意識して、少し尻ごみしたが、三原の目は輝いていた。
「思いつきで結構です。どうぞ話して聞かせてください」
 鳥飼は仕方がないので、列車食堂の「御一人様」という伝票のことを言った。話しながら娘の愛情と食欲の問題が頭にうかんだが、さすがにそれは話さなかった。
「なるほど、おもしろい着眼ですね」
 と三原は、目もとに微笑をたたえてうなずいた。外交員のように柔和であった。
「その伝票は、保存してないのですか?」
「変死ですが別に犯罪ではないので、持物はいっさい遺族が引きとりに来たときに渡しました」
 部長が横から説明した。
「そうですか」
 三原は眉の間に、失望をかげらせたが、
「伝票の日付は、たしかに一月十四日でしたか?」
 と、鳥飼にきいた。
「そうです」
「その日は、佐山が小雪の女中のお時と東京駅を《あさかぜ》で出発した日ですな。ええと──」
 と言いかけて、ポケットから手帳を出してひろげた。
「ここに、《あさかぜ》の時刻表を控えておきました。東京発が十八時三十分、熱海が二十時、静岡が二十一時一分、名古屋が二十三時二十一分、大阪が二時になりますが、これは午前ですから、翌日の十五日になります。ですから、伝票の十四日は、二十三時二十一分の名古屋が、最後の駅になりますね」
 鳥飼は聞きながら、三原の言おうとする意味がだいたい飲みこめた。そしてこの男も、自分と同じことを考えていると察した。保険の外交員のような男だが、さすがに警視庁だな、と思った。
 すると三原は部長の方に、
「これから現場を見たいと思います。おいそがしいところを恐縮ですが、鳥飼さんにご案内を願っていいでしょうか?」
 と申し出た。
 部長は、仕方のないような顔で承知した。
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