本日もセンチメンタル26

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 26 天の助け

 
 もちろん、三《み》船《ふね》の手下たちは、桜《さくら》木《ぎ》を追いかけて来たのだが、居間へ入って来て、面《めん》食《く》らった。
 
 そこには、桜木の代りに、花《はな》八《や》木《ぎ》と隆《たか》志《し》がいたのだ。
 
「な、何だ、お前ら? あいつをどこへやった!」
 
 隆志の方は、突《とつ》然《ぜん》、詩《し》織《おり》から、
 
「ここを食い止めて!」
 
 と言われて、どうしていいか分《わか》らずに、ただオロオロしていた。
 
 ただ一人、落ちついて見えるのは、花八木だったが、隆志に、
 
「刑事でしょ! 何とかして下さいよ!」
 
 と、つつかれて、
 
「今は——勤務時間外だ!」
 
 などと言い返しているところを見ると、やはり落ちつき払《はら》っているわけではないらしい。
 
「邪《じや》魔《ま》する気か? やめとけよ。痛《いた》い目にあいたくなきゃな」
 
 と、手下の一人が、ナイフを取り出した。
 
「お、おい!」
 
 と、隆志は精《せい》一《いつ》杯《ぱい》の強気な言い方で、「ここにいるのを誰《だれ》だと思う! 水《み》戸《と》黄《こう》門《もん》——じゃない、天下の刑事だぞ!」
 
「あ、本当だ」
 
 と、手下の一人が、花八木を憶《おぼ》えていたらしい。「親分がやられた時に、見かけたぜ、こいつ」
 
「確かか?」
 
「ああ、こんなまずい面《つら》、一度見たら忘《わす》れねえよ」
 
 花八木が顔を真《まつ》赤《か》にして、その手下をにらみつけた。詩織が、もしここにいたら、きっと大喜びしただろう。
 
 しかし、当の詩織は、桜木の手を引いて庭へ下《お》りたものの、三船の手下たちがドカドカ居間へ入って来たので、身動きすれば見付けられると思うと、逃《に》げることもできず、庭にじっとうずくまっていた。
 
「——すまないね、君には迷《めい》惑《わく》ばっかりかけて」
 
 一《いつ》緒《しよ》に、庭に身を伏《ふ》せながら、桜木が言った。
 
「いいえ。どういたしまして」
 
 実際に、どんなに迷惑をかけているか、たぶん桜木自身も全く分《わか》っていないに違《ちが》いない。
 
「啓《けい》子《こ》さん、どこに?」
 
 と、詩織は、声をひそめて訊《き》いた。
 
「分らないんだ。ただ、君の所へ行ったら、色々分るからって……」
 
 そりゃ、分るかもしれないけど、話をするのに、五、六時間は必要だろう。特に、こういう状《じよう》況《きよう》では、とても説明できない。
 
「じゃ、おじさんが殺したんじゃないの?」
 
 と、詩織は、取りあえず一番気になっていることを訊《き》いてみた。
 
「殺した? 誰《だれ》を?」
 
「種《たね》田《だ》とかいうのと、三船とかいう奴《やつ》」
 
「私が? とんでもない!」
 
 と、桜木は首を振《ふ》った。「人殺しなんて、とてもやれないよ。そりゃ——啓子を守るためならともかくね」
 
「啓子さんって、すてきな人だもんね」
 
「そう思うかい?」
 
「思う! 絶対思う!」
 
「いや、そう言ってくれると嬉《うれ》しいね」
 
 と、桜木は相《そう》好《ごう》を崩《くず》して、「あれは十七歳だけど、そりゃしっかりしてるんだ。さすがに、血《ち》筋《すじ》っていうのかな、ものに動じない度《ど》胸《きよう》の良さがあってね」
 
「そうでしょうね」
 
「しかし、あれで可《か》愛《わい》いところがあるんだよ。料理も結構いけるんだ。君、一度あの子のビーフシチューを食べてごらん。どんな一流レストランでも負けない味だよ」
 
「作り方を教えてもらおう」
 
「それにね、子供っぽく見えるだろう? あれでなかなか女らしく、色っぽいところもあってね……」
 
 何のこたあない。おのろけを聞かされているのである。詩織の方は、でも結構そんな話が嫌《きら》いでない。
 
 庭に体を伏《ふ》せたまま、という、あまり快適とは言いかねる姿《し》勢《せい》で、桜木の、「啓子讃《さん》歌《か》」を聞いていたのである。
 
 ——一方、居間の中では、
 
「動くな!」
 
 珍《めずら》しく、花八木が決めている。
 
 花八木の手には拳《けん》銃《じゆう》があった。
 
 これで、三船の手下たちが、みんな手を上げて、おとなしくしているのなら、申し分なかったのだが、その手下たちの方の手にも拳銃があったのだ。
 
「動くな!」
 
「動くな!」
 
「銃を捨《す》てろ!」
 
「銃を捨てろ!」
 
 ——何のことはない。お互《たが》いに、銃をつきつけ合ったまま、どうにも動きが取れずにいるのである。
 
「う、撃《う》つぞ!」
 
「引金を引くぞ!」
 
「当ったら、痛《いた》いぞ!」
 
 しまいには、どっちが言っているのか分《わか》らなくなって来る。
 
 しかし、絶対的に不利なのは、明らかに花八木の方である。何といっても、相手は五人もいる!
 
 一度に五発、別の方向へ弾《だん》丸《がん》が飛び出すような特殊な拳《けん》銃《じゆう》だとでもいうのならともかく、相手の方は、三人が拳銃を構えて、花八木と隆志に狙《ねら》いをつけている。これでは単純に計算しても、勝ち目はない。
 
 かくて——花八木が頑《がん》張《ば》ったのも二分間ほどのことで、結局、花八木は拳銃を捨《す》てて、降《こう》参《さん》しちゃったのである。
 
「——だらしないなあ、全く!」
 
 と、隆志がにらんだが、
 
「いけないわ」
 
 と、居合せた智《とも》子《こ》がたしなめて、「人間、誰《だれ》しも生きる権利はあるのよ」
 
 三船の手下たちは、ワッと庭の方へと殺《さつ》到《とう》した。
 
 詩織も、状《じよう》況《きよう》を素早く見て取ると、桜木と二人で、庭の隅《すみ》へと逃《に》げて行った。
 
 しかし、庭といっても大《だい》邸《てい》宅《たく》じゃないのだ。たちまち隅っこへ追い詰《つ》められてしまう。
 
「——手こずらせやがって」
 
 と、三船の手下の一人が、前へ出た。「おい、おとなしく、その男をこっちへ渡《わた》しな」
 
「いけないわ!」
 
 詩織は、桜木をかばって、「この人をどうしても連れて行くのなら、私を殺してからにして」
 
「そうか。じゃ、そうしよう」
 
 と、相手が拳銃で詩織に狙《ねら》いをつけた。
 
 詩織は焦《あせ》った。口は災《わざわ》いのもと。つい、こんなセリフが出て来てしまったのだ。
 
「いけないよ」
 
 と、桜木が、詩織をわきへ押《お》しやって、「ここは私が死にゃすむことだ」
 
「でも——」
 
「啓子に伝えてくれないか。いつまでも愛してる、って」
 
 詩織が、グスグスと泣《な》き出した。
 
 と——何だかいやにやかましい音が、近付いて来た。
 
「何だ? 雷《かみなり》か?」
 
 と、三船の手下が空を見上げる。
 
 バタバタ、という超《ちよう》特《とく》大《だい》扇《せん》風《ぷう》機《き》みたいな音がして——頭上に何とヘリコプターが姿《すがた》を見せたのだ!
 
 誰《だれ》もが唖《あ》然《ぜん》として見上げる内に、低空で飛んでいたヘリコプターは、ぐんぐんと高度を下げ、詩織の頭上へ近付いて来た。
 
 もの凄《すご》い風が、庭を渦《うず》巻《ま》く。
 
「キャッ!」
 
 詩織はスカートがめくれて、声を上げた。
 
「桜木さん!」
 
 と、大きな声が頭上で響《ひび》いた。
 
 スピーカーから流れている声は、あの竜《りゆう》崎《ざき》幸《さち》子《こ》のものだった!
 
「お竜《りゆう》!」
 
「逃《に》げるのよ! つかまって!」
 
 ヘリコプターから、縄《なわ》ばしごがスルスルとおりて来た。
 
「そこの女の子も!」
 
 私のこと?——詩織は、こんな時、危《あぶな》いことにはつい手が出てしまう性格である。
 
「とびつけ!」
 
 桜木が怒《ど》鳴《な》って、縄ばしごにとりついた。続いて、詩織も。
 
「行くよ!」
 
 と、竜崎幸子の声がした。
 
「ワッ!」
 
 と、詩織は思わず声を上げていた。
 
 ぐん、と体を持ち上げられる。
 
 縄ばしごの先に、桜木と詩織の二人をぶら下げたまま、ヘリコプターは、ぐんぐん上《じよう》昇《しよう》し始めたのである。
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