黒田如水47

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 名馬書写山

 
「いま羽柴殿から、ご訓示やら抱負《ほうふ》を述べられたが、どうだな、諸公。中央中央とよく仰せあるが、毛利衆からいわすれば、中国こそ中央というかもしれん。織田衆の眼は、ちと己れに即し過ぎて、毛利の勢力を、過小に観てはおられんかな? ……。どうもそんな気がするが」
 と、これが別所賀相《よしすけ》である。
 酩酊《めいてい》の様子でもあるが、舌なめずりしながら、座の左右ばかりでなく、向う側の人々へも、しきりに呼びかけていうのであった。
「毛利家の富力と軍備は、ちょっと、想像も及ばんでな。殊に水軍は圧倒的なものだ。元就《もとなり》以来の蓄積がものをいっとるし、それに現主の輝元はともかく、吉川元春《きつかわもとはる》といい小早川隆影《こばやかわたかかげ》といい、そう甘くは見られん。各雄才だ」
「これ、これ。長治の叔父どの」
 怺《こら》えかねたかの如く、秀吉が、上座からその耳を引っ張るように呼んだ。
「何だ、ぶつぶつ。いったい其方のいおうとしている要旨《ようし》は、意味は」
「やあ、お耳に触《さわ》りましたかの」と、賀相も太々《ふてぶて》しいところがある。年からいえば秀吉の親ぐらいな甲羅《こうら》も被《かぶ》っているので、びくともする様子ではなかった。
「つまりは——でござる。御身《おみ》のために申せば粗忽《そこつ》にこの中国へ懸り給わば由々《ゆゆ》しき大事を引き起し候わんと、案じるのでござる。こちらも緩々《ゆるゆる》と軍備を固め、毛利方の小城枝城をぼつぼつ攻め落されて後、よい虚実を計って大軍を動かさるべきでないかと考えまするのでな」
「要《い》らざる事申すまい」
 秀吉はほんとに怒った。そして賀相や三宅治忠の面を正視してから烈言した。
「其方たちは、唯、筑前が先手を勤め、わが命を奉じて、奮戦すればよいのだ。左様な根本の方策戦略は、信長公より命をうけて、一切この秀吉の方寸《ほうすん》にあること。おぬしらの容喙《ようかい》はゆるさぬ」
「ははあ、左様なもので」
 賀相は自若《じじやく》として、隣の治忠へ、
「……じゃそうでござる。何と、もうこれにおる意義はなかろうではないか。どれお暇《いとま》しようか」
 頤《あご》で促《うなが》して、共に退席してしまった。
 加古川を離れると、賀相は馬の上から、三宅治忠へ向っていっていた。
「今夜の芸はちと首賭《くびか》け仕事であったな。だが、これでまず、殿をうごかす理由は出来たというもの。……何の、羽柴ずれや、黒田らに、別所一族が足軽《あしがる》代りに駆使《くし》されて堪《たま》るものではない。第一、毛利家に対して、われらの面目がたたぬ」
 これは、腹からの毛利方なのだ。官兵衛に説かれて、城主長治は、織田へ随身を誓ったものの、その城中にはなお、こういう強固な反信長分子が多いことを、今のことばは立証して余りがある。
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