【憎きもの】 ~第二十八段(三)

(三)

 また、物語するに、さしいでしてわれひとりさいまくる者。すべてさしいでは、童も大人もいと憎し。あからさまに来たる子ども・童べを、見入れらうたがりて、をかしきもの取らせなどするに、慣らひて常に来つつ、ゐ入りて調度うち散らしぬる、いと憎し。
 
 家にても宮仕へ所にても、会はでありなむと思ふ人の来たるに、そら寝をしたるを、わがもとにある者、起こしにより来て、いぎたなしと思ひ顔にひきゆるがしたる、いと憎し。今参りのさしこえて、物知り顔に教へやうなること言ひ後ろ見たる、いと憎し。
 
 わがしる人にてある人の、はやう見し女のことほめ言ひいでなどするも、ほどへたることなれど、なほ憎し。まして、さしあたりたらむこそ思ひやらるれ。されど、なかなかさしもあらぬなどもありかし。
 
 はなひて誦文(ずもん)する、おほかた、人の家の男主(をとこしゆう)ならでは、高くはなひたる、いと憎し。
 
 のみもいと憎し。衣(きぬ)の下にをどりありきてもたぐるやうにする。犬のもろ声に長々と鳴き上げたる、まがまがしくさへ憎し。
 
 あけていで入る所たてぬ人、いと憎し。
 
(現代語訳)
 
 また、話をするときに、でしゃばって自分ばかり先走る者。大体でしゃばりは、子どもでも大人でもとても憎らしい。ちょっとやって来た子どもや召使いの少年らに、目をかけてかわいがり、面白い物を与えたりすると、それに慣れてしょっちゅうやって来ては部屋に座り込み、回りの品々を取り散らかすのはほんとうに憎らしい。
 
 自宅でも奉公先でも、会いたくない人がやって来て、狸寝入りをしているのに、そこにいる者が起こしに寄ってきて、寝坊していると思って引っ張って揺するのは、まことに憎らしい。新参者がしゃしゃり出て、何でも知っているような顔で指図がましく言い、仕切っているのも、ほんとうに憎らしい。
 自分と今関係している男が、以前関係のあった女のことをほめて話し出すのも、年月が過ぎたこととはいえ、やはり憎らしい。まして、現在のことだったらどんなであろうかと思いやられる。しかし、かえってそれほど憎らしくないこともあるものだ。
 
 くしゃみをして自分でまじないを唱えるとき。大体、一家の男主人以外の人が高くくしゃみをするのは、実に憎らしい。
 
 のみもとても憎らしい。着物の下で跳ね回り、着物を持ち上げるようにするとき。犬が声をそろえて長々と吠え立てているのも、不吉な感じもして憎らしい。
 
 開けて出入りする所を閉めないままにする人は、とても憎らしい。
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