【頭の中将の】~第八十二段(四)

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(四)

 「『ただ、この返りごとに従ひて、こかけをしふみし、すべて、さる者ありきとだに思はじ』と、頭の中将ののたまへば、ある限りかうやうしてやりたまひしに、ただに来たりしは、なかなかよかりき。持て来たりしたびは、いかならむと胸つぶれて、まことに悪からむは、せうとのためにも悪かるべしと思ひしに、なのめにだにあらず、そこらの人のほめ感じて、『せうと、こち来(き)。これ聞け』とのたまひしかば、下ごこちはいとうれしけれど、『さやうのかたに、さらにえさぶらふまじき身になむ』と申ししかば、『言(こと)加へよ、聞き知れとにはあらず。ただ、人に語れとて聞かするぞ』とのたまひしなむ、少し口惜しきせうとの覚えにはべりしかども、本(もと)つけこころみるに、言ふべきやうなし。『ことに、またこれが返しをやすべき』など言ひ合はせ、『悪しと言はれては、なかなかねたかるべし』とて、夜中までおはせし。これは身のためも人の御ためも、喜びにははべらずや。司召に少々の司得てはべらむは、何とも覚ゆまじくなむ」と言へば、げにあまたして、さることあらむとも知らで、ねたうもあるべかりけるかなと、これになむ、胸つぶれて覚えし。このいもうと・せうとといふことは、上まで皆しろしめし、殿上にも、司の名をば言はで、せうととぞつけられたる。
 
 物語などしてゐたるほどに、「まづ」と召したれば、参りたるに、このこと仰せられむとなりけり。上(うへ)渡らせたまひて、語り聞こえさせたまひて、男(をのこ)ども皆、扇に書きつけてなむ持たる、など仰せらるるにこそ、あさましく、何の言はせけるにかと覚えしか。
 
 さてのちぞ、そでの几帳(きちやう)など取り捨てて、思ひ直りたまふめりし。
 
(現代語訳)
 
 「『ただ、この返事しだいでは、こかけをしふみし、全くそんな者がいたとは思うまい』と頭の中将がおっしゃるので、そこにいた皆で考えて手紙をおやりになったが、使者が手ぶらで帰ってきたのは、かえってよかった。返事を持ってきたときはどうなることかと胸がどきどきして、ほんとうに出来が悪かったら、この兄にとってもよくないだろうと思ったが、並々でなく大勢の人がほめて感心し、『お兄さん、こっちへ来い。これを聞け』とおっしゃったので、内心はとてもうれしくも、『そうした詩歌のほうは、一向にお相手できるほどの身ではございません』と申し上げた、すると、『批評しろとか理解しろというのではない。ただ、人に話せというので聞かせるのだ』とおっしゃり、兄としてちょっと情けない思われ方だったが、人々が上の句をつけようとしても適当な文句が見つからない。『ことさらに、またこの句の返事をしたものだろうか』などと話し合い、『つまらない返事だと言われては、かえって無念だ』などと、夜中まで思案していらっしゃった。これは私自身にとってもあなたにとっても祝い事ではないか。司召に少しばかりの官職を得たとしても、これに比べれば何とも思われない」と言う。なるほど大勢でそんな計画があったとも知らず、へたな返事をしていたらさぞしゃくにさわったであろうと、今更ながらに胸がどきりとした。この私と則光を兄妹と呼ぶのは、主上(一条天皇)まですっかりご存知で、殿上でも、則光の官名ではなく「せうと」と名づけられている。
 
 則光といろいろ話しているうちに、中宮様が「ちょっと」とお召しになったので参上したところ、このことをおっしゃろうというのだった。主上が中宮様の所においでになってお話しあそばし、殿上人たちは皆、あの句を扇に書きつけて持っているとのことで、あきれて、何があの句を言わせたのかしらと思われた。
 
 それから後は、頭の中将も、袖で几帳のように顔を隠すのをやめて、機嫌をお直しになったようだった。
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