五分次郎

 むかしむかし、子どもがいない、おじいさんとおばあさんがいました。

 二人は毎日、
「小さくても構いませんから、子どもを授けてください」
と、観音さまにおまいりをしました。
 そんなある日、おばあさんの左手の親指が急にムクムクと大きくなり、それから七日七晩たつと、親指からポロリと小さな小さな男の子が生まれたのです。
 男の子の大きさは、一寸の半分の五分(→約1.5センチ)くらいでした。
 でも、おじいさんとおばあさんは大喜びです。
「観音さまが、願いをきいてくださったぞ!」
「五分しかないから、五分次郎と名付けましょう」
 この五分次郎は、小さくても元気いっぱいな男の子でした。
 
 ある日の事、五分次郎が笹の葉に乗って、ようじをさおにして川で遊んでいると、突然、海からやってきた大鯛にパクリと飲み込まれてしまいました。
「あれ? 魚に飲み込まれてしまったぞ。・・・まあ、いいか。そのうちどうにかなるだろう」
 五分次郎はのんきにも、大鯛のお腹の中で昼寝をはじめました。
 さてその大鯛は、やがて漁師の網にかかって魚屋の調理場に連れて行かれました。
 魚屋が大鯛のお腹を切ると、五分次郎は、
「今だ~!」
と、元気よく飛び出しました。
 それから何日も旅をして、五分次郎は鬼ヶ島へ行きました。
 五分次郎が岩の上からながめていると、鬼たちが赤鬼と青鬼に分かれて、戦いの稽古(けいこ)をしています。
 五分次郎はおもしろがって
「赤勝った。こんどは青勝った」
と、はやしたてました。
 それを聞いた鬼たちは、声の主を捜し始めました。
「いったい誰だ。稽古をじゃまするのは!」
 そしてついに、鬼の親分が五分次郎を見つけました。
「なんだこの小さな小僧は、腹の足しにもならんが、こうしてくれるわ」
 鬼の親分は五分次郎をつまみ上げると、口の中へポイと放り込んだのです。
「ああ、また食べられちゃった」
 鬼のお腹に入った五分次郎は、鬼の体の中をかけまわると、ようじの刀で、
 胃袋をチョン!
 おへそをチョン!
 のどをチョン!
と、つつきまわります。
 五分次郎を飲みこんだ鬼の親分は、目を白黒させて、
「うわあ、痛い! 痛い!」
と、大騒ぎです。
 すると鬼の子分たちは、親分のお腹の中にむかって叫びました。
「おい、宝物をやるから、親分の体から出て来い!」
 すると五分次郎は、
「本当だな! 嘘をついたら、またここへもどるからな!」
と、いって、鬼の親分の鼻から外へピョーンと飛び出しました。
「さあ、約束通り宝物をもらうぞ!」
 すると鬼たちは馬と宝物を用意して、馬の背中に宝物を積んでやりました。
 すると五分次郎は、馬の前髪に座って馬を歩かせると、おじいさんおばあさんの待つ家に帰って行ったのです。
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