芝居見物

 むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。

 ある日、臼杵(うすき→大分県)の町に、都から芝居がやって来ました。
 この辺りでは、これほどの大芝居は初めてです。
 毎日多くの人が押しかけ、うわさを聞いた吉四六さんも、臼杵まで山を越えてやって来ました。
 町に着くと、大きな芝居小屋がたっていました。
 芝居小屋の前には役者の名をそめたのぼりが立っていて、入口には綺麗な絵看板が並んでいます。
 吉四六さんは、さっそく入ろうと思いましたが、
「しまった!」
 かんじんのお金を、忘れてきたのです。
「これでは、入る事は出来んな」
 そこで吉四六さんはあれこれと考えて、一つの名案を思いつきました。
「よし、この手でいこう」
 
 吉四六さんは人混みに紛れて芝居小屋の入口までやって来ると、くるりと向きを変えて、わざと大きな声で言いました。
「どうしたのかなー! あいつはー!」
 そして、人を探すふりを始めたのです。
 まるで人を探しながら、今、この芝居小屋の中から出てきたと言わんばかりです。
 キョロキョロしている吉四六さんの後ろに、芝居小屋へ入ろうとする大勢のお客が詰めかけてきました。
 それでもまだ、
「来ないなあー! あいつー!」
と、わざと入ってくる人の邪魔をする様にしていると、芝居小屋の番人がやって来て、
「もしもし、そこの人。
 出るのかね?
 入るのかね?
 出るなら出る、入るなら入るで、早くしておくれよ。
 邪魔になるじゃないか」
 すると吉四六さんは、すまなそうに言いました。
「いやー、連れとはぐれたんだが。
 ・・・仕方ない、中で待つとするか」
 こうして吉四六さんは芝居小屋に入って行き、ただで芝居見物をしたのです。
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