まぼろしの星(12)

戦いのボタン

 
 
 ここは地球からはるか離れた星だ。人類が訪れたのも、いまがはじめてにきまっている。そこで逃げこんだ地下室。こんなところで、突然話しかけられたのだから、みなはびっくりした。ノブオは叫んだ。
「いったい、だれなのです。どうしてぼくたちの言葉を知っているのです」
「みなさまがた、わたしはここにある装置です……」
 と、またも声がした。装置には小さなスピーカーがついており、声はそこから出ていた。人間の声とは少しちがう。しかし、なぜこんな装置があるのだろうとふしぎがっていると、声は話しつづけた。
「……みなさまがたは、地上のようすをごらんになりたいでしょう」
 それと同時に壁が明るくなり、地上の光景がうつし出された。地上のどこかにテレビカメラがあり、それが送ってくるのだろう。
 地上では丸い宇宙船があばれまわっている。森だろうが、湖だろうが、お城だろうが、そのヘんにあるすべてを焼きはらっている。ノブオのお父さんのモリ隊員が言った。
「ひどいものだろう。ずっと、あんなぐあいなのだ」
「むちゃくちゃね……」
 と、ミキ隊員は顔色をかえた。すると、装置がまた声を出した。
「いちばん上にある赤いボタンを押してみてください……」
 この装置の正体がなんなのかわからないが、ノブオは、そのとおりにした。地上のすごさに驚き、なにかしなければいられない気分だったのだ。壁にうつる光景をながめていると、半分こわれたお城の門から、人影が現われた。三人だ。だれも、両手を上にあげて振り、もうやめてくれという身ぶりだった。モリ隊員が思わず叫んだ。
「あ、だれだか知らないが、あんなむちゃをする。やられるにきまっている。早くとめなくては……」
 外へかけだそうとするのを、装置の声がとめた。
「いいのです。あれはロボットなのです。いま押していただいたボタンによって、ああいうふうに出ていったのです。どんな目に会わされるか、ためすためです……」
「なるほど……」
 みなは見つめていた。丸い宇宙船は、その三つのロボットにもたちまち襲いかかった。近づいてきて、赤い輝きをさらに強くしたのだ。ロボットはとけてしまった。ロボットとわかっていても、いい気持ちではなかった。
「外へ出ると、ああされてしまうのだ」
 と、モリ隊員が言い、ノブオはふるえた。
「宇宙には、あんなひどいやつらもいるんですね。降参しても、やっつけられてしまう。もしあんなのが地球へ攻めてきたら、どうなるだろう……」
 壁にうつる光景を見ていると、赤く丸い宇宙船の一つは、ガンマ九号のほうにも進んでいる。ミキ隊員は言った。
「あ、あたしたちの乗ってきたガンマ九号がやられてしまうわ……」
 ガンマ九号は丈夫な金属でできている。だが、丸い宇宙船はそれを押し倒し、高熱を発射した。そのため、ついにガンマ九号もとけはじめ、煙が出た。なかにあるものはみんな焼けてしまったのだろう。ペロが悲しそうな声でほえた。
「ああ、とうとう……」
 ノブオはそこまでしか声が出なかった。ずっと乗ってきて、なかで生活していた宇宙船だ。自分の家のような気持ちにもなっていたのに、それが焼かれてしまったのだ。
 悲しいことだし、もっとひどいことなのだ。もう地球へ帰れない。この星から飛び立つことができないのだ。
 ここが住みよい星ならまだいい。しかし、この星は焼け野原になりつつある。いま命が助かったとしても、食べ物がない。やがては、うえ死にしなければならないだろう。
「みなさまがた……」
 と、また装置がゆっくりした声を出した。ノブオは、なにをのんきなことを言ってるんだい、と怒りたくなった。しかし、がまんした。悪いのは丸い宇宙船のやつらで、この装置ではないのだ。装置は言った。
「……やつらをやっつける方法がわかりました。さっきのロボットが、熱でとけてしまう少し前に、相手の熱線の種類や強さを通信してきたのです」
「いまになって教えてもらっても、まにあわないよ。だけど、どうすればいいんだい」
 と、ノブオが聞くと、装置の声が答えた。
「冷凍弾を命中させるのです。つまり、相手を急につめたくしてやるのです」
「そんなこと教えてもらっても、どうしようもないよ。それとも、それを出してくれるというのかい」
「はい、このさらに下にある倉庫にあります。二番めの赤いボタンを押してください。それが発射され、敵を全滅させることができます」
「それなら、もっと早く自動的に発射していればよかったのに。この星がこんなにやられないですんだはずだよ。ぼくたちのガンマ九号だって、ぶじだったはずだ」
「装置は調べたり計算したり報告したりするのが役目なのです。戦いをはじめるには、だれかにボタンを押していただかなくてはなりません。どうなさいますか」
 これは戦いなのだ。ノブオとお父さん、ミキ隊員は相談した。戦いをはじめるかどうかを、よく考えてきめなければならない。かっとなって、簡単にきめてはいけないのだ。
 相談は、ボタンを押すことにきまった。丸い宇宙船を、このままにしておくと、やつらはいい気になって、また別な星を襲うにちがいない。そして、理由もなにもなく、そこを焼け野原にしてしまうのだ。
 ここでやっつけるべきなのだ。ノブオのお父さんがボタンを押した。みな壁にうつる地上の光景を見つめた。ほんとにやっつけることができるのだろうか。
 地面のところどころから、小さなミサイルが飛び出した。キラキラ光っている。相手の出している強い熱線を、その表面で反射してしまうのだ。
 そのため、とけてしまうこともなく丸い宇宙船に近づき、命中した。そのとたん、敵はこなごなに砕け、爆発した。高熱になっていたのが急にひえたので、内部のしかけが狂ったのだろう。
「やった……」
 と、みなは叫んだ。丸い宇宙船はつぎつぎに爆発する。急いで飛び立って逃げようとしたのもあったが、冷凍弾のミサイルが追いつき、やっつけた。
 みなは地上へ出てみた。あたりは焼けあとだらけで、ひどいものだった。だが、もうどこにも赤く丸い宇宙船はいない。キーンという飛ぶ音もしない。全滅したのだろう。ノブオは思わず両手をあげ「ばんざい」と叫んだ。
 それから、ガンマ九号のあった場所に行ってみた。そこにはとけた金属が少し残っているだけだった。ミキ隊員が言う。
「こんなになっちゃったのね……」
 ノブオは忘れかけていたそのことに、あらためて気がついた。敵をやっつけていい気持ちになっている場合ではないのだ。また悲しくなってきた。
「もう、どうしようもないんですね」
 すると、お父さんが言った。
「その覚悟をしなければならないかもしれないよ。いや、宇宙で働く者は、だれもずっと覚悟のしつづけなのだよ。しかし、最後までできるだけの努力はしてみなければならない」
「なにか、まだ方法があるんですか?」
「地下室にあった、あの装置のことだ。あれはいろいろなことを知っている。冷凍弾を発射して敵をやっつけもした。もしかしたら、なにか知恵をかしてくれるかもしれない」
「そういえばそうですね」
 ノブオは、ほっとした。そして、すぐ喜んだり、がっかりしたりするぼくは、やはり子供なんだなあと思った。
 だが、あの装置は力をかしてくれるだろうか。なぞの装置なのだ。だれが作ったのかも、なぜぼくたちの言葉を知っているのかもわからないのだ。
 みなはまた地下室へ戻り、装置の前に立った。まずお礼を言う。
「おかげで、ひとまず助かったよ。どこの星から攻めてきたやつらかは知らないけど」
 装置の声が答えた。
「あれはブキル星のやつらでした。これまでにも、ほうぼうの星で同じようなことをやってきています。ごらんになりますか」
 壁にうつっている光景が変った。やつらはどんな星に着陸しても、あばれる以外は知らないらしい。それらの記録が、つぎつぎとうつし出されたのだ。ミキ隊員が言う。
「ほんとうにひどいのね。あなたは、こういうのを見ても、なんとも思わないの」
「わたしは装置ですからなんとも感じません。非常にむだなことであるとの計算はいたしますが」
「いまの光景は本物なんでしょ」
「はい、ほうぼうの星にしかけたかくしカメラがうつしたものです。それが電波で、ここまで送られて記録されたのです。ついでに、もうひとつ、別な記録をごらんください……」
 ちがった光景がうつし出された。それを見て、みなは驚きの声をあげた。
「あ、これは……」
 ガンマ星の基地を出発し、ほうぼうの星に着陸した地球人の探検隊がうつっているのだ。自動装置のある星で、お酒を飲んで酔っぱらっている隊員たちのうつっているのがあった。そのなかには、ノブオたちがうつっているのもあった。恐竜のいる星で逃げまわっているところもあるのだ。みなは感心した。なんとすごい装置なのだろう。これなら、地球の言葉だって知っているはずだ。ノブオのお父さんが言った。
「こんなふうにうつされているとは思わなかった。それにしても、ブキル星人と地球人とは、まるでちがうなあ。かたほうは見さかいもなく焼きはらうばかり。それにくらべると、地球人のほうは、だらしないのもいるが、まだしもましだな」
 ノブオが口を出し、装置に聞く。
「なぜ、このような手間のかかることをしているのです。この装置はだれが作ったのです。ぼくたちが基地を出発してから、ずっとふしぎなことばかりでしたが、ここと関係があるんですか」
「それらについては、お答えできません。もう少しさきの星にいらっしゃってください。そこでおわかりになるはずです」
「そんなこと言われても、ぼくたちの宇宙船はやられちゃったんだよ。行きたくてもだめなんだ」
「ここの地下の倉庫にある宇宙船を出してさしあげます。あなたがたにも動かせるものです。ここの青いボタンをお押しください」
 ノブオは押した。やがて、地上に一台の宇宙船が出現した。いかにも性能のよさそうな形だ。みなはそれに乗りこむ。お父さんが言った。
「いよいよ、まぼろしの星にむかうというわけか。だれがそこにいるのだろう。どういうつもりで、こんなことをしたのだろう……」
 
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