「お墓参り」

 娘は十九歳のとき、私との激しい口げんかがもとで家出をしてしまいました。神奈川の親友の家に厄介になりながら仕事を見つけ、二十六歳の現在まで真面目に暮らしてきたようです。以後、娘とは七年間で三度しか会っていません。その一人娘の優子が今秋結婚することになったのです。

「おやっ、優子か?」
 先日、庭に娘の姿を見かけました。いつ帰ってきたのかと思いながら二階の窓から眺めていると、庭の隅に置いてある十センチほどの石の前にしゃがみこみ、花と小袋に入ったスナック菓子を供えているではありませんか。
まるで小さなお墓のように。
 
「お義父さん、お邪魔しています」
 振り向くと、婚約者の利文君が立っていました。娘と一緒に来ていたのです。
「優子さん、あのお墓のことを話してくれたことがあります。四、五歳の頃、死んだペットを自分で埋葬したそうですね。もっとも小さい頃だから、ハムスターなのか金魚なのか、どんな動物だったかも覚えていないらしくて。とにかく埋めたという記憶だけが残っているから、毎年お墓参りを続けていると言っていました。僕はそんなやさしい優子さんが大好きなんです」
「—-私の知らないうちに、こっそり帰ってきていたのか」
利文君の話を聞いて、なにかグッとくるものがありました。
 
 すると妻が近寄ってきて、こう言ったのです。
「ううん、あれね、ペットじゃないのよ。あの子、おもらししたパンツを埋めて隠したの。私、この窓からずーっと見ていたんだから」
 
三人は、涙が出るほど大笑いしました。
娘は私たちに見られていることも知らず、パンツのお墓に向かって十字を切っています。
私はこの話を披露宴で話そうか、迷っているのです。
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