「父と私」

幼いころ、父が家にいる休日が嬉しかった。

頑固で真面目で働き者。形に表すと正方形、といった感じの父。
なのに、休日はバラエティー番組で大笑いしたり、マンガを読んだり、柔らかな四角形の表情を見せる。
休日、テレビを見る父のベッドにもぐりこむのが、たまらなく好きだった。
交わした言葉は覚えてないけど、父の横には必ずコーラがあって、寝床のクーラーが効きすぎていて、父の体温がやたらあったかくて、ドア越しに、母の掃除機をかける音や、バタバタと廊下を行き来する足音を聞いているとひどく安心した気持になったのは覚えている。
私は形に表すと歪んだ丸。真面目とか我慢とか、言葉を聞くだけで尻込みしちゃう。
直線で書いた四角い父と歪んだ丸の私、不思議と馬が合ったのはなぜだろう。
私が、歌手になりたいから大阪に行く、と決めた時、一番言いにくかったのは父だった。でも、どこかで父は許してくれるんじゃないか、そうも思っていた。
反対は、なかったように思う。決めたら進め、と、後押ししてくれた。
二年後には実家に戻り就職。そして一年で仕事を辞め、また大阪へ。ただひたすらやりたいようにやってきた。
父の感覚からすれば、理解をとうに超えているだろう。今の私の生き方は父にどう映るのか。定職につかず、目指している生き方も、うまく伝えられず。
それでも毎年誕生日の朝、誰よりも早くメールをくれる。「あなたの人生に幸多かれ」と。
父は、私のために心を変えてくれているんじゃないか、父の理想とはかけ離れたところにいるのに、いつも応援していてくれる。自分の想いは一言も言わず。
誰よりも頑固なのに、芯の強い人なのに、家族を思って、自分を変えることのできる父を、本当に強い男の人だと思う。
私はその父に包まれて今日まで生きてきた
分享到:
赞(0)