宇宙の声(08)

一つの作戦

 
 
 オロ星の月の基地では、地上にはびこりつづける、おそろしい植物をながめ、だれもが困りきっていた。キダやミノルたちも、どう手伝ったものか、いい考えが浮かばない。ただ、気の毒がったり、はげましたりするだけだった。
 しかし、そのうち、スロン星へ行った宇宙船が戻ってきた。冷凍砲をかりてきたのだ。基地のなかは、急に元気づいた。帰ってきた人びとは報告した。
「スロン星ではとても同情され、たくさんの冷凍砲をかしてもらった。これは冷凍光線を出し、それが当ると、すべてのものは凍りついてしまう。ここで実験してみよう」
 長さ二メートル、直径二十センチほどの筒状のものだった。それを見てハルコは、天体望遠鏡のようね、と思った。
 こみいったしかけなのだろうが、使い方はやさしかった。引き金を引くと青白い光がほとばしり、命中すると、なんでも凍りついた。ながめていたひとりが言った。
「すごいものだな。これで植物を凍らせれば、生長が止まるにちがいない。しかし、いつまでも凍ったままではいないだろう。やがてはとけ、またあばれだすのではないかな」
「いや、そのための準備はあるのだ。このプラスチックの液ももらってきた。凍らせてから、これをかけるのだ」
 そのプラスチックは熱をまったく伝えない性質を持っており、これをすぐ吹きつけてつつんでしまえば、ずっと凍ったままになるというのだった。
「なるほど、それならうまくいくかもしれない。さっそく攻撃にかかろう」
 ようすがわかり、キダは申し出た。
「わたしたちの宇宙船にも、それを一台積んでください。攻撃に協力します」
「それはありがたい。お願いします」
 それから、オロ星の地図をかこんで、作戦がねられた。キダの宇宙船には、デギがいっしょに乗ることになった。
 オロ星人の宇宙船は、何台も月の基地を飛び立ち、地上へとむかった。冷凍砲での攻撃が、開始された。
 キダは、宇宙船を操縦し、地面近くをゆっくり飛ばせた。いやな、むらさき色をした大きな葉の植物が、敵意をひめて、ゆっくりと動いている。つるに巻きつかれたら、たちまち、こわされてしまうのだ。
 宇宙船から、デギが冷凍砲をうった。植物はたちまち動かなくなる。つぎに、プーボがプラスチック液を吹きつける。ミノルとハルコも熱心に手伝った。
 作業は順調に進んだ。地上の植物は、みるみるうちに造花のようになってしまった。
「おりてみましょうよ」
 と、ハルコが言い、キダは宇宙船を着陸させた。あたりは、奇妙な光景だった。だれもいないビルやこわれた橋に、動きを止めた植物が巻きついている。それらの表面は、吹きつけられたプラスチックのため、キラキラした感じになっていた。
 静かななかで、ときどき、ポキポキいうするどい音がひびいた。凍ったために弾力がなくなり、植物のつるが折れる音だった。
 その時、ミノルが悲鳴をあげた。
「助けて……」
 みながあわててふりむくと、建物のなかから植物がのびて、ネバネバした葉でミノルをつかまえた。建物のなかまで、冷凍光線がとどかなかったのだ。
 デギは急いで冷凍砲をむけた。だがへたに発射すると、ミノルも、凍ってしまう。注意してねらい、植物を凍らせて動かなくした。
 しかし、葉にくっついたミノルは、なかなかはなれない。ついに服をぬいで、やっと逃げだすことができた。それから、みなは建物のなかをよくさがし、植物を凍らせる作業をつづけた。
 オロ星人たちも、それぞれ作業をすませ、月の基地へと戻ってきた。
「なんとか一段落したようだな。植物があばれなくなった」
「これで、ひと息つける。つぎは、あれをどうするかだ。利用価値のない氷の星へでも運び、捨てることにでもするか」
 しかし、何日かすると、そう簡単にはいかないことがわかってきた。望遠鏡でながめると、地上では植物が息をふきかえし、また動きはじめたらしい。たしかめに行った者の報告で、それははっきりした。凍って折れた部分から、芽を出しはじめたのだ。その部分にはプラスチック液がついていなかったためだ。
 しかも、こうして生長をはじめた植物には、もう冷凍砲のききめがなかった。冷凍光線を反射してしまう表面を持っていたのだ。植物は、またも地上にはびこってきた。
「作戦は失敗だった……」
「まったく残念だ」
 だれもがため息をついた。以前よりも、しまつにおえない性質を持った植物になったのだ。植物はプラスチックを敵の一味とさとったらしく、プラスチック製の建物をこわしはじめた。
「こうなると、わたしも安心できなくなりました」
 と、プーボが言った。プーボはプラスチック製のロボットなのだ。
 勢いをもりかえした植物は、そのうち、|実《み》のようなものを作りはじめた。細長い形で、豆のさや[#「さや」に傍点]を大きくしたような感じだった。それをつるの弾力を利用して、空へ投げ上げる。
 ある高さになると、それはうしろからガスを吹き出す。そのため、けっこう高く上がるのだった。そして、地上に落下する。これを月の基地から望遠鏡でながめたひとりが言った。
「ふしぎなことがはじまった。なんのために、あんなことを、やっているのだろう。遊んでいるのだろうか……」
「いや、遊びをやるような、のんびりした植物ではない。きっと、なにか目的があるはずだ。どんな目的かはわからないが」
 デギもそれを見ていたが、やがて、心配そうに言いかけて、途中でやめた。
「もしかすると、まさか……」
 キダが聞き、気にしながら言った。
「なにを考えついたのですか」
「植物が投げ上げているもののなかにはタネが入っているのではないかと思ったのです。あの植物は、このオロ星を支配するだけでは満足しなくなったのかもしれません」
「しかし、そう簡単には成功しないでしょう」
「いや、あの植物のことだ。いつかはタネを宇宙に送りだすのに成功するでしょう。すでに、熱にも低温にもたえる性質を持っています。宇宙を流れ、やがては、ほかの星々にまでひろがることにならないともかぎりません」
「そうなったら、いつかは地球も……」
ミノルとハルコは青くなった。そうなったら、大変なことだ。
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