宇宙の声(12)

勝利の日

 
 
 オロ星の地上では、怪植物と虫たちの戦いがくりひろげられた。それはなかなか勝負がつかず、何日もつづいた。
 おたがいに相手をやっつけようと、ネバネバした液を出している。怪植物は種子を作って宇宙へ飛ばすのをやめ、虫をやっつけるのに熱中している。虫たちもぜがひでも食いつぶそうとしている。
 しかし、やがて虫たちのほうが負けそうになってきた。だんだん動きがにぶくなる。虫をもっとたくさん使えばよかったのかもしれないが、いまからではまにあわない。
 ヘリコプターのなかからようすを見ているキダやミノルたちは、気が気でなかった。虫が負けたら、もう方法はないのだ。
「虫勝て、植物負けろ」
 と、祈ったり、叫んだりした。だが、声で応援しても、なんの役にも立たない。
 ミノルはそばにあった光線銃を手にし、植物にねらいをつけた。プーボが止めた。
「そんなことしても、だめです。光線銃のききめのないことは、わかってるはずです」
「だけど、なにかをしなければ、いられない気持ちなんだ」
 と、ミノルは引き金をひいた。高熱の光線がほとばしった。
 そのとき、思いがけないことが起こった。命中したところで爆発が起こったのだ。植物と虫とが死にものぐるいになって出した液。それがまざりあって、きわめて爆発しやすいものになっていたらしい。
 爆発は一部分だけではなかった。葉からつる[#「つる」に傍点]へと爆発はつづき、一つの怪植物はこなごなになった。また、その飛び散った熱で、ほかの怪植物もつぎつぎに爆発していった。
 時間があれば、植物も爆発しないように、自分の性質を変えたにちがいない。しかし、あまりに突然だったのだ。
「あぶない……」
 と、キダが言い、ヘリコプターを上昇させた。爆発の風で機体がゆれたのだ。それに、うかうかしていると、こっちまで火が移ってくるかもしれない。
「すごいながめね」
 と、ハルコが言った。高くあがって見おろすと、爆発がどんどん広がっていくのがわかった。赤く輝く火を散らし、外側へ外側へと広がっていくのだ。
 夜になると、限りない数の花火を上げているようで、雄大な美しさだった。それは月の基地にいる人たちも見ることができた。
 キダはヘリコプターを飛ばし、各地で光線銃を使った。こうすれば、怪植物の全滅も早くなるはずだからだ。
 しかし、爆発しつくしてしまうには、けっこう時間がかかった。いちおうおさまってから、みなは着陸し、ようすを調べるために外へ出た。
 手ごわかった怪植物も、いまは灰になって、あとかたもない。
「みんなこなごなになっちゃったようね。いいきみだわ」
 と、ハルコが言った。プーボはくわしく調べてから報告した。
「地面の中の根まで、こなごなです。もう大丈夫でしょう」
「そうとは言いきれない。まだタネがどこかに残っているかもしれない。早くその問題にとりかかろう」
 と、キダは言った。種子が残っていると、植物はまた息を吹きかえし、こんどこそとりかえしのつかないことになる。
 キダは無電で月の基地に連絡した。
「怪植物は全滅しました。しかし、タネさがしをしなければなりません。そのために、あらゆる人と資材とを使ってください」
 もし残った種子をみつけたら、すばやく入れ物にとじこめる。栄養物がなければ生長しないのだ。これを急いでやらなければならない。
 その作業がはじめられた。手わけをして地上をくわしく調べたが、種子は残っていないようだった。虫との戦いがはじまってから、植物は種子を作るどころではなくなっていたのだろう。それまでの種子は、すでに植物に生長していたのだ。
 それでも、しばらくは心配だった。どこかにひとつでも残っていると大変なのだ。
 しかし、何日かすぎても、怪植物はどこからも育ってこなかった。
「やれやれ、やっと終ったようだ」
「なんという、長い苦しい戦いだったろう。まだ終ったと信じられない気分だ」
 オロ星人たちは、キダやミノルたちと顔を見合わせ、大きくため息をついた。だれも疲れきっており、倒れる寸前だった。もう少し長びいたら、どうなっていたかわからない。
 怪植物は爆発ですっかりほろんだが、虫はまだいくらか残っていた。そして、ほかの植物を食べつづけている。
 しかし、虫は、もはやふえず、しだいに数がへってゆき、そのうちに、まったくいなくなった。雌の虫がまざっていなかったので、卵が残らなかったのだ。
 テリラ星からつれてきた強く大きな鳥たちは、あいかわらず飛んでいた。だが、なれているのでおとなしい。種子をうち落とす仕事がなくなり、そのうち力を持てあましてあばれはじめるかもしれないが、退治できない強敵ではない。
 残る問題は、砂の星にいる虫たちだ。しかし、よそへ広がる心配はない。注意をしながら研究すれば、退治法をみつけることができるだろう。
 なにもかも一段落だった。しかし、ひと休みするわけにはいかない。やることはたくさんある。
 まず、海底の都市に連絡した。そこでは、大ぜいのオロ星人たちが、不安な夢を見ながら冬眠しつづけているのだ。
「われわれは勝った。もう安心です」
 しらせを受けて、人びとは長い眠りからめざめ、つぎつぎに地上へ戻ってきた。その人たちは、手のつけようもなく強かったあの怪植物が、すっかりほろんでいるのを見て、ほっとした。
 もちろん、地上はずいぶん荒れはてている。建物や橋はこわれ、畑や牧場もめちゃめちゃだ。しかし、力を合わせて努力すれば、やがては、むかし以上に栄えることができるのだ。
 それに、むかしとちがって、科学を利用したり、宇宙に進出する時には、よく注意しなければならないことが、身にしみてわかっている。もう、かるがるしいあやまちは、二度と起こさないだろう。
 人びとは、冬眠中に行なわれた、植物を退治する戦いの苦心を聞き、キダやミノル、ハルコやプーボたちの手伝いを知り、心からお礼を言った。それから、みなで、
「ばんざい」
 をとなえた。それは大きく明るく力強く、宇宙のはてまでとどくかと思われる声だった。
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