死にそこなった花嫁10

エピローグ

 
「——おい、尾崎」
 と、呼ばれて、尾崎竜男は、また車の下から、
「何だ?」
 と答えた。
「客だぜ」
「客?」
「うん」
「分った」
 ガラガラと車の下から台にのって出て来て、立ち上ると、「誰だって?」
「行きゃ分るよ」
 同僚がニヤニヤしている。
 首をかしげながら、外へ出ると——尾崎は呆気《あつけ》にとられた。
 大型の高級車が停って、運転手がドアを開けると、中から降りて来たのは、純白のウェディングドレスに身を包んだ、片瀬幸子。
「幸子……さん」
「尾崎さん」
 と、幸子は言った。「あなたにもらっていただきたくて、来ましたの」
「何です?」
「結婚して下さい」
 尾崎はポカンとして突っ立っている。
「しっかりして!」
 と、大声をかけたのは亜由美。
「ワン!」
 と、ドン・ファンも吠《ほ》えた。
「しかし……僕なんか……」
「愛してるんですもの」
 と、幸子が言った。「本当です」
「はあ……」
 尾崎は、雲の上、という様子。
「ほら、抱いてキスしてあげなさい」
 と、聡子がたきつける。
「でも……油だらけだ」
 と、作業服の尾崎が言うと、
「構わないわ!」
 幸子がウェディングドレスのまま、力一杯尾崎に抱きつく。
 拍手が起り、ドン・ファンは再び威勢よく鳴いたのだった。
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